逆関係としての関数の単射性、全射性
本文
数学で関数を考えると単射や全射といった概念が表れます。こういった概念はなぜ重要なのでしょうか。
2項関係としての関数
例として、2乗するという関数を考えます。関数を以下のように書くことができます。
これは変数を含んでいますが、関数とはの集まり、つまりといったペア*1の集まりと考えることができます。
これに含まれるペアを本稿では以下のように書きます。
このように書くと、関数とは2項関係の一種であることがわかります。2項関係(あるいは単に「関係」)とは、関係のあるペアの集まりです。2項関係の例としては、等しいという関係 や小なりという関係などがあります。
2項関係が関数になる条件
すべての関数は2項関係ですが、2項関係は一般には関数であるとは限りません。上の例ではという2項関係は関数ですが、という関係は関数ではありません。より大きい数は複数ありますし、より小さい数も複数あります。
2項関係を決めるには、2つの集合、定義域と値域を定める必要があります。ここではを定義域、を値域とします。
必ずしも関数とは限らないと上の2項関係が関数であるための条件を考えます。
2項関係が関数になるひとつめの条件は、の任意の要素について、行先(ペアになるの要素)がたかだかひとつに定まることです。
この条件を関数性と呼ぶことにします。
述語論理で書くと以下のようになります。
2項関係が関数になるふたつめの条件は、定義域のすべての要素について、行先が存在することです。
この条件を全域性と呼ぶことにします。
述語論理で書くと以下のようになります。
(1)を満たしているが、(2)を満たしているとは限らない2項関係のことを部分関数と呼びます。これに対して、(1)と(2)の両方を満たしている2項関係を関数または全域関数という呼び方をします。
単射性、全射性
必要な準備ができました。ここからが本題になります。
関数が単射であるとは、関数の条件(1) (2)に加えて、
行先が重なることがないという性質を持っていることです。
以下の条件で表されるこの条件(1')を、ここでは単射性と呼ぶことにします。
いっぽう、関数が全射であるとは、関数の条件(1) (2)に加えて、
関数のありうる行先が値域すべてを含んでいるということです。
以下の条件で表されるこの条件(2')を、ここでは全射性と呼ぶことにします。
ここで、説明せずに使いましたが、とはの逆関係で、を使ってで定義することができます。
(1)と(1')、そして(2)と(2') を見比べてみると、との役割と、記号の左右とが入れ替わっていることがわかります*2。
を新しい記号で置き換えてみるとよりわかりやすくなるかもしれません*3。
以上より、
という関連がわかりました。単射性、全射性は、関数の条件であるところの関数性、全域性の裏返しなので、関数について考えると自然に表れてくる概念だということがわかります。
この関連がわかると、以下の主張も明らかなものとなります。
単射な部分関数というのは(1) (1') をみたす2項関係ですので、逆関係は単射な部分関数になり、これを逆関数と呼ぶことができます。
単射かつ全射な全域関数というのは(1) (2) (1') (2') をみたす2項関係ですので、逆関係は単射かつ全射な全域関数になり、これを逆関数と呼ぶことができます。